舞台がはねたら 第6話
しかしそれからの数日間で、アレックスはダリウスの妙な感覚など杞憂でしかなかったと思わせるほど順調に一座に溶け込んでいった。襟足が長く少し癖のある亜麻色の髪に干し棗のような甘い色の眸を持った青年は、やって来たその日からす…
しかしそれからの数日間で、アレックスはダリウスの妙な感覚など杞憂でしかなかったと思わせるほど順調に一座に溶け込んでいった。襟足が長く少し癖のある亜麻色の髪に干し棗のような甘い色の眸を持った青年は、やって来たその日からす…
公演の初日には独特の空気がある。どこかそわそわと落ち着かないような、それでいてこの先に待っている素晴らしい時間に想いを馳せるような、その不思議な感覚は舞台の表裏を問わずに一座を包み込み、それは団長たるダリウスも決して例…
息の合った3つ子のかけ声も勇ましいアクロバット、無言のピエロが繰り広げる喜怒哀楽に満ちたパントマイム。鞭の音と共に獅子や虎がしなやかな跳躍を見せれば、その後には手に汗握る綱渡りや、積み上げられた椅子の上での息を呑む逆立…
「聞こえる? メロディ、すごい人よ!」 ――その30分ほど前、舞台裏の控え室で。ペアでエアリアルシルクの演技を終えたオードリーとガラテアが戻って来るなりそう言うと、メロディは口紅を点すために見ていた鏡から顔を上げて明る…
数多の公演を開催する中、演者が常に万全の状態で出演できるとは限らない。それでも彼らは時間が来れば舞台に上がり、場合によっては果敢な挑戦を自らに強いてでも観客の心を満たすことに専念する。人々は驚きや感動を期待し、胸を高鳴…