いつもならばすぐに開けられる部屋の鍵もこんな時だけは妙に手間取る。予期せぬ驚きはそれだけに伴う喜びも一層大きく、ようやく開いた扉の向こうにメロディを迎え入れたダリウスは、再び錠を下ろすや否や強く彼女を抱きしめた。

「ああ……見回りの間もずっと君のことばかり考えていたんだ。メロディ、来てくれて本当に嬉しい」

 少し冷えたメロディの身体。あの場を抜け出すことさえ大変だっただろうに、誰かに見られる危険を冒してまで待たせてしまったことを思えばやさぐれていた自分が恨めしい。

「ほんの少しだけだとしても、あなたと2人になりたかったんです」

 ぎゅっと腕を回してそう言ってくれる恋人はあまりにも愛しく、彼の心臓はどくんと1つ大きな脈を打つ。彼女も同じ思いでいてくれた、ただそれだけのことがなぜこんなにも嬉しくてたまらないのだろう。

「君の演技は素晴らしかった。もちろんいつもそうなんだが、今夜は特に誇らしかったよ」
「あなたこそ。久々に見る舞台の上のあなたはとても素敵で、私……」

 うっすらと頬を染めたメロディはそこで少し口ごもると、気恥ずかしいのかダリウスの胸に顔を埋めて囁いた。

「この人が私の恋人なんだって、あの場にいた人たち全員に向かって叫びたくなってしまいました」
「……メロディ……」

 あまりの喜びを抑えきれず、彼はそれ以上言葉を続けるよりも甘いキスを捧げることでその感動を現す方を選ぶ。一途で純粋な彼女の愛、それを一身に受けることのできる幸福。こうして唇を交わすようになってからもう2年の時が経ってはいても、メロディへの想いは弱まるどころかますます強くなっていくばかりだ。

「私もそう思っていたんだ。あの場で君を抱き上げて、私のものだと見せつけてしまえればどんなにいいだろうかと」
「あなたが?」
「あんなことがあった以上これを言うのは気が引けるが……妬いていたのさ、君と似合いだとばかり囃し立てられていたアレックスに対してね」

 その気まずい告白を聞いた彼女は初めこそ目を丸くしたものの、すぐにふっと表情を和らげて愛しげにダリウスを抱きしめてくれた。
 すり寄せられた柔らかい頬に感謝を込めて口づけると、慌ただしく過ぎ去った出来事が目まぐるしく彼の心をよぎる。振り返れば綱渡りのような緊張と隣り合わせの日々ではあったが、そんな中でも最後まで諦めず全力を尽くすことができたのは、やはりメロディという心の支えがいつも傍にいてくれたからだろう。彼女と共に過ごせる時には憂いや後悔と無縁でありたい、そして願わくば努力の果てに掴んだ栄光を2人で一緒に喜びたい。その思いがここまでの大成功をもたらした一端であることは間違いないのだから。

「私にはあなたしかいません。ダリウス、あなたがいてくれるから私はどんな時でもがんばれるんです」

 蜜より甘いその囁きに身体の奥が熱くなる。どんなに疲労を感じていても、メロディと愛し合うことに勝る癒しはどこにもない。かと言って無理を強いる気など毛頭ないのだが、もしも許しを得られるならばあらん限りの時間と情熱をかけ、2人の歓びを分かち合いたいのは彼の正直な思いだった。それが彼女にとっても同じであればどんなにいいだろう……。

「私も同じだよ。愛しているんだ……メロディ、君を」

 そう言ったダリウスはメロディの唇を啄ばむように優しく食むと、なめらかな髪に片手を差し入れてより深くまで彼女を求めた。その背を抱いていたもう片方の手で豊かな膨らみを包み込めば、いつもよりも早いメロディの鼓動が薄布越しに伝わってくる。一際長い口づけの終わりに零される吐息は何とも甘く、彼女の双眸に揺らめいているのは美しい切望の輝きだ。
 この世でただ1人自分だけが知っている恋人の官能的な美しさ、それに魅入られずにいられるほどには落ち着いてしまったつもりもない。我知らずこくりと喉を鳴らしながら、おもむろにメロディを抱き上げた彼はそのままベッドの縁に腰を下ろす。そして恋人を後ろから抱え込むようにして脚の間に座らせると、形の良いその耳に沿って自身の舌先をつっと這わせた。

「……っん……!」

 びくんと跳ねる素直な身体。背後からは見えずとも、ダリウスには彼女がどんな表情をしているのかなど手に取るようにわかっている。メロディが特に敏感な性質とは言え、自分の愛撫に感じてくれれば男としては嬉しいものだ。その身に触れることを許される、それは心を許してくれているという何よりの証に他ならないのだから。
 ちゅ、と小さな音を立てて項や肩口にキスを落としながら、彼は前に回した自身の両手で恋人の胸を揉んでいく。だが微かに響く甘い声を堪能していたのも束の間、ふいに重ねられた彼女の細い手は胸元を編み上げる飾り紐の結び目にダリウスの指先を導いた。メロディは戸惑いがちに振り向きながらも切ないまなざしでこちらを見上げ、彼女に見惚れる年長の恋人にその先の行為を言葉なくせがむ。

「……いけないな、そんな目をしては。私の自制が効かなくなったら困ってしまうのは君の方だ」

 彼は余裕のなさをごまかすように笑ってそう嘯くと、丁寧に衣服を緩めるかたわらまた1つ濃厚なキスをした。
 張りのある双丘に直に触れれば残りも僅かな理性は消え去り、その柔肌から立ち昇る甘い香りにはどんな香水も敵わない。しばらく前からダリウスの下腹部は窮屈さを訴えていたものの、こんなにも魅力的な誘惑の前では、自分の服を脱ぐことでさえも不可能に近い至難の技だ。
 実のところ彼自身も少しばかり緩慢に攻めすぎているという自覚はあるのだが、決してメロディを我慢の限界まで追い詰めたいなどと意地の悪いことを考えているわけではない。だが自分だけが知る悩ましい姿をできる限りこの目に焼き付けておきたいと思わないとは言い切れず、ついついもどかしい刺激に終始してしまうことは申し訳なく思っている。だが自分があと10も若かったならば、彼女を十分に満たせないまま情欲に支配されて貪ってしまうだろうし、歳上の恋人を持った性として、それに目を瞑ってほしいと願うのはやはり身勝手に過ぎるだろうか。

「あ……ぁ、ダリウス……」

 いつしか蜜壺に埋められたその指はある場所を探るように僅かに曲げられ、中と外の弱い部分を絶妙の力加減で撫でさすっていく。緩やかだが確実に深められていく快感にメロディは身悶えて儚く喘ぐも、身も心も愛される歓びを知っていればこそ彼女はダリウスの為すがままだ。

「〜〜っ!」

 あふれんばかりの快楽を積み重ねた後にやって来るその瞬間。小さく身体を震わせながら指を締め付けて達すると、ぐったりとその背を預けるようにしてメロディは彼へともたれかかった。さすがのダリウスもここまで来ればもう見ているだけでは満足できない。止め処なく昂ってしまうのも当然の魅力に満ちた恋人を前に、これ以上の忍耐はもはや無意味な虚勢でしかないだろう。

「メロディ……!」

 今すぐ1つになりたい――焼けつかんばかりに彼の心を駆り立て焦がすその思い。全ての衣服を落としたダリウスは、滾る欲望を押さえつけながらメロディを自分の上に乗せ、熱く張り詰めた自身の先端を蜜でぬかるんだ秘所へと当てる。

「……っ!」

 愛する彼女のとろける体温に全てが包まれていくこの感覚。2人はこの瞬間の歓びを確かめるようにどちらからともなく見つめ合うと、愛に満ちた時間の始まりを告げるようにそっとお互いの唇を重ねた。