楽園の扉【完】

楽園の扉 第1話

『この女を殺してほしい』  そう言って渡された写真を無感動に見つめながら、男は琥珀色の液体が注がれた無骨なグラスを傾ける。薄暗い場末のバーに他の客の姿は1人も見えず、歌い手の哀愁のこもった唄の他には店主が磨く酒の瓶が棚に…

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楽園の扉 第2話

 炉端で風に煽られる新聞の土埃を払って拾い上げ、男は何日か前の日付が印刷されたそれをめくりながら斜めに視線を走らせる。多くの紙面を割かれていたのは遠い国での戦争についてだが、冷たいブルーグレーの目をした殺し屋はそんな話題…

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楽園の扉 第3話

「――お前、自分が何を言っているかわかっているのか?」  殺し屋がしばしの沈黙を経た後で若干不機嫌そうに女に問うと、彼女は声こそ立てはしないがはっきりとその首を縦に振った。 「せっかく生き残れたのに死にたいのか。お前、自…

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楽園の扉 第4話

 女が町を離れれば、恋に狂った男はあらゆる手段を講じて足取りを見つけ出しては追いかけてくる。裕福でもない娘の家族が逃げられる場所には限度があり、相手が時の権力者であるなら安住の地などどこにもなかった。曰くつきの一家を匿う…

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楽園の扉 第5話

「――あら、ノアじゃない?」  雑多な人種の行き交う通りでノアと呼ばれた1人の男――黒い帽子を被いた殺し屋は、夜の歓楽街でも一際目を引く建物の前で足を止めた。白い石造りの門の端には煙管を吹かした女がおり、燃えるような赤毛…

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