舞台がはねたら 第1話
サーカス――その日常から隔絶された天幕の中で人は煌びやかな夢を見る。高らかなファンファーレに合わせて駆ける馬、目にも留まらぬ速さで跳ね回る曲芸師たち、幕間にはおどけたピエロが笑い声をさらっていく。怪力の大男が炎を噴けば…
サーカス――その日常から隔絶された天幕の中で人は煌びやかな夢を見る。高らかなファンファーレに合わせて駆ける馬、目にも留まらぬ速さで跳ね回る曲芸師たち、幕間にはおどけたピエロが笑い声をさらっていく。怪力の大男が炎を噴けば…
「しかし何度経験しても複雑なものだな……恋人が他の男に言い寄られているというのは」 見回りの冒頭に出くわした光景を思い出したのか、ダリウスはため息混じりにそう呟く。責任者たる彼と花形スターのメロディが交際を始めてもう2…
そんな2人の出逢いは15年前に遡る。当時5歳のメロディは両親に連れられて初めてのサーカスを見に来た帰り、人混みの中で独りはぐれてしまったことがあった。周りが次々に天幕を後にする一方、このまま両親が見つからなければ自分は…
「おーい、全員に回ったか? まだの奴は早く取りに来い!」 「なくなっちまってから文句言うなよ!」 公演を終えた翌日から一座は全ての資材をまとめ、キャラバンを組み次の目的地まで旅をする。その日の昼食は大きな鍋で豪快に調理…
「エフェメールさん、お久しぶりです」 「――ああ、君か!」 まだそこかしこに書類の束が積み上げられたままの団長室、その戸口に若いマジシャンの姿を目にしたダリウスは笑顔を見せて立ち上がると彼と固く握手を交わす。 「片付い…