「あぁ……!」

 吐息と共に零れ落ちる愛しい恋人の艶やかな声。レオンはシャンティの花弁を自らの先端で押し開くと、吸い付くような感触を味わいながら奥まで満たしていく。前回よりは抵抗なく進めたことに安堵はしたものの、相手はつい先日まで生娘だった純な身の持ち主だ。思う様に腰を打ち付けたくなる衝動と戦いながら、彼女の中を探るように自分自身を引いてはまた挿れる。それはある意味最も酷な状況の我慢比べのようで、いつ耐えきれず達してしまうかは全く予断を許さない。だが――。

「……っ!?」

 ぞくぞくするほどもどかしく続けられるその抽送の最中、ある1点でシャンティは腰を浮かし両目をはっと見開く。それを見逃さなかったレオンは僅かに唇の端を上げ、内心で勝利を確信するともう1度“そこ”を確かめた。

「――ここか?」
「や……っだめ、レオン!」
「こういう時は“いい”って言いな……もっと快くしてやるから」

 ゆるゆると往復させれば彼女の手にぎゅっと力が入る。耳元に舌を這わせながら嘯く彼にも余裕はないが、せめて自分よりも先にシャンティを歓ばせてやりたかった。かと言って激しく攻めれば痛みを与えてしまうだろうから、まずはこれが気持ちの良いことなのだと覚えてもらうためにも、レオンは彼女のために少しずつ教えていく必要がある。我を忘れるような絶頂に数回で到達できるほど、女の身体が単純なものではないと理解はしているが、それでもいつか自分の手でシャンティをその場所へ導きたい、そんな淡い夢まで諦めてしまったわけではないのだから。
 こうして繋がる時に彼が感じている大きな幸福と、それに伴うたまらない快感を恋人にも知ってほしい。自分が望むように、彼女にも望まれ、求め合いたい……時間を忘れて何度でも。

「あ……はぁ、あ」

 濡れた唇から零れるは官能の響きが混じる喘ぎ。レオンはそれを心に刻みつつ動きの幅を広げていく。優しく奥を突く毎に仰け反るその首筋に口づければ、魅惑の鳴き声は切なくも甘やかに男の名を紡いだ。

“ちくしょう、何て顔しやがるんだ……”

 とろけて潤んだ眸は見ているだけで昇り詰めそうになる。この広い世界で彼1人だけが目にすることを許された、愛しい女が一糸纏わずシーツの上で乱れる姿。そんな彼女に触れられる以上の幸福などあるのだろうか?

「……っあ、ぁ……!」

 自分の下で歓びに悶えているシャンティは愛しかった。男の名を呼ぶ声には想いの欠片が散りばめられていて、その響きは魂の奥から更なる情熱を呼び覚ます。彼女がレオンを愛し、求めてくれていると伝わる度に、また1つ2人は甘いキスを重ね、最後の時は近い。彼はシャンティを引き寄せるようにそっとその背と腰を抱くと、甘く柔らかな彼女の匂いに包まれながらこう尋ねた。

「もう……中でいってもいいか……?」

 愛と欲望に掠れた声は焦燥感のあまり上ずり、自分でも既に我慢の限界に近いことはわかっている。枷を外して抱いてしまえばすぐに昇り詰めてしまうだろう。こんな言葉は他の誰にも敢えて伝えたことはなかったが、もはやレオンは構わなかった。今までは柄でもないと敬遠していたような物事さえ、シャンティとなら存外新たな楽しみに変わるかもしれない。生涯を懸けて愛する女の前で偽りなど無意味だ。自分がどれほど彼女の全てを求めまた愛しているのか、それを伝える術は思いつく限り全て試したところで、きっと真実の半分も表せないに違いないのだから。
 荒野の町の静かな夜、小さな部屋の中で繋がる2人をランプの明かりが照らす。彼が恋人の返事を聞こうと軽くその腕を緩めると、鳶色の眸は恥じらいながらも真っ直ぐにレオンを捉え、そして――。

「来て、ください」

 心を擽る甘い微笑みと共に囁かれた答えに、男は彼女を抱き寄せ力強い律動を刻み出した。

「あぁ……ん、っ!」

 感じさせておかねば辛かったかもしれない抱き方をしても、濡れた唇が紡ぎ出す喘ぎに苦痛が混じることはない。シャンティの脚を抱え上げ、もっと深くまで交わる度に、身体中の神経が焼きつきかねない快感が駆け巡る。荒く乱れた息は熱く、引いては再び穿つ合間にも彼女への口づけを重ね、両腕で抱きしめ、情熱を分け与え、受け入れられる――何をも隔てず。

「シャンティ……!」

 その名が表すものの全てを心の底から愛している。こんなにも眩く、こんなにも尊い唯一の存在。指と指、舌と舌、身体と身体を絡ませ合い、全身で愛しいシャンティの温もりを感じられる喜び。もはや彼女を失うことなど決して考えられはしない。シャンティの隣こそがレオン・ブラッドリーの生きる場所なのだ。どんなに危険な敵と対峙せねばならない運命だろうと、もう2度とこの手を離して自分が生きられるとは思わない。

「ああ……シャンティ、俺は……」

 彼は元来言葉よりも行動で示すのを好む性質たちだ。だがそんな男でも時には声に出して言いたい時がある。それはあたかも心からあふれた想いが身体中を巡り、最後にその口の端で言葉になろうとしているかのように。

「俺は……お前のことを」

 しかし留まるところを知らない快楽には抑えなど効かず、理性の手綱を振り切った身体は一気に駆け昇っていく。

「――っく!」
「んんっ……!」

 誰よりも愛するただ1人の女に激しく引き絞られ、言おうとしていた言葉の終わりはついぞ声にはならなかった。背中が震える毎に欲望の証が何度も迸り、とろけるようにまとわりつくシャンティの奥へと広がっていく。願わくば興奮と安らぎが溶け合うこの幸せな時を、彼女もまた同じ想いを以ってそう感じていてくれたなら。

「……レオン……」
「ん……?」

 しばしの後に呼びかけられ、レオンは肩で短く息を切らしつつ顔を上げて応える。シャンティは手を伸ばして細い指で黒い髪をかき上げると、夢うつつなまなざしで彼を見つめながら小さく囁いた。

「愛して……います。あなたを……」
「……!」

 戻るべき場所に帰ってきたような感覚を味わいながら、レオンは引き寄せられるがままに恋人の唇を求める。触れ合わせるだけの軽いキスはお互いへの労わりに満ちて、こんな時間がずっと続いてくれればと思わずにいられない。口づける間にも彼女の身体からは力が抜けていき、その眸が閉じられると共に微かな寝息が聞こえ始め、男の背に回っていた手は音もなくシーツの上に落ちる。細い手首に唇を押し当てた彼は優しく微笑むと、今しがた伝えられなかった言葉を告げようと口を開き……。

「ああ。俺もお前を……愛してる、シャンティ」

 愛の言葉は魔術にも似て自分自身の魂を縛る、先住民の血を色濃く継いだ祖母はそう言っていたものだ。まだ幼かったレオンは意味もわからず頷くだけだったが、今となっては先祖が口伝えに残してきた伝承にも、幾許かの真理らしきものが含まれていたと理解できる。誰彼構わず告げていい文言ではないと言われた通り、彼は今日まで他の誰にもその言葉を聞かせたことはない。伝えていいのは自分の全てを捧げてもいい相手だけだ。そしてそれは正しかったと、恋人の頬に口づける男は繋がりを解きつつ思う。

“まあ、聞こえたかと言えばこれまた微妙なところなんだがな”

 目的地まで残りの行程はおよそ3週間しかなく、彼女をめぐるアラステアとの決戦の時はもうほど近い。お互いの身を清めシャンティに上掛けを引き上げたレオンは、その温もりを腕に抱くと自身も目を閉じて眠りに就いた。