「シャンティ……」

 名を呼ばれると同時に心が震えるようなキスが落とされ、柔肌に触れる手はその先を待ちきれないと言わんばかりだ。情熱的な口づけに深く応える女の足元には、ようやく全ての釦を外されたシャツが音もなく舞い落ち、焚き火の光は2人が再び1つになる夜を彩る。鋭い冷え込みさえも彼らの周りではほのかな熱を帯び、何も隔てず互いの肌に触れられる歓びは果てしない。

「もっと早く言うべきだったな」
「な……に、を……?」
「心底愛してるってことをさ」

 細腕が抱く黒髪は彼女の豊かな胸に埋められ、男が言葉を発する毎に熱い吐息が肌を掠める。その頂きを甘く食まれ、柔らかい膨らみの重さを確かめるように触れられる度、シャンティの若い身体は瞬く間に疼き出し燃え上がった。恥じらいと緊張を忘れてしまったというわけではないのに、触れ合う素肌の心地良さは彼女をとろけさせてしまうのだ。
 腰を下ろしたレオンに膝立ちで向かい合ったシャンティの背や、形の良い腰つきを彼の手が焦らすようにして撫でていく。そのまま彼女の脚の間に挿し入れられた男の指は、早くも潤い始めた蜜壺の入り口をまさぐり始め、声を上げずに堪えていられるのも残念ながら長くはない。感じる場所の全てをこうも丹念に愛撫されてしまえば、シャンティが何もわからなくなってしまうのも無理はないだろう。そして彼女は心から愛する相手の名前を呼びながら、なめらかな背を反らせてこの夜最初の歓びを味わった。

「……レオン、あの……」
「ん?」
「私にも……させてください、あなたに」

 愛しげに黒い目を細め、シャンティが昇り詰める様をしっかりと見つめていたレオンは、思いがけないその申し出に一瞬驚いた顔を見せる。しかし彼女とて一方的にしてもらうだけのつもりはなく、できることなら相手にも同じ歓びを感じてほしいのだ。そんなシャンティの可愛らしい望みをすぐさま悟った彼は、唇の端を微かに上げると組んでいた脚を解いて言う。

「なら……お前の口で、してくれるか?」
「!」

 手を添えられたその場所はどの夜よりもなお大きく見えたが、ここで怖じ気づくくらいならこんなことを言い出しはしなかった。慎重でありながら同時に大胆さも持つ荒野の娘、そんな彼女が今まさに未知への扉を開こうという時、待ち受けるものに臆し首を横に振ることなどありはしない。
 栗色の髪をした娘は頬を染めて小さく頷くと、ゆっくりと手を伸ばし自身の指先で相手のものに触れた。だがここまではいつかの夜にもしたことのおさらいでしかなく、期待の滲んだまなざしが言葉なく求めるのはその先だ。触れている場所の熱さに思わず喉がこくりと鳴ったものの、レオンの想いに応えたいという彼女の気持ちは変わらない。シャンティは覚悟を決めると彼の下腹部に己が身を屈め、両手で包み込むようにした相手の幹にそっと口づける。

「……っ!」

 その瞬間にレオンの筋肉質な腿がぐっと締まり、彼に触れている唇から力強い鼓動が伝わった。これだけでこんなにも相手を感じさせることができるのなら、もう少し冒険してみたら一体どうなってしまうのだろう……? 頭の中に浮かんだそんな考えに突き動かされるまま、彼女は柔らかい舌先でレオンの昂りをなぞっていく。それがついに雫を湛える彼の先端まで辿り着くと、シャンティは相手の最も敏感な部分を口に含んだ。

「う……ぁ、っ」

 屹立した恋人の全てを咥えることはとても無理でも、頭上で微かに響くその声の何と官能的なことか。愛する男の歓びは彼女に幸福と自信を与え、丁寧な奉仕の中に好奇心が顔を覗かせ始める。弱い場所はどこなのか、1番反応の大きい部分は? 舌を這わせる度に跳ねるそれはむしろ可愛らしくすらあり、その先を追求しようとする探究心には終わりがない……しかし。

「シャンティ、もう十分だ」

 彼はそう言ってシャンティを引き上げ、華奢な背を抱きしめると、自身の限界を訴えるように苦しげな声で続けた。

「いっちまうかと思ったぜ。だがそれならお前の中がいい」

 その言葉は2人が愛し合う機が熟したことを告げていて、彼女は仰向けに寝そべった黒髪の恋人の上になる。指を絡ませた両手に導かれながらそっと腰を落とし、できる限りの力を抜いて――。

「ん……!」

 たっぷりと濡れたシャンティの秘所は小さな水音を立てつつ、レオンの硬く勃ったものをその奥までいっぱいに受け入れた。それだけで栗色の髪の娘の心は満たされていくが、下からは黒曜石の双眸が急かすように見上げてくる。彼女は恋人の傷ついた身体になるべく負担をかけず、それでいて歓びを分かち合えるように動き始めたのだが、そこへ相手の突き上げが加わるまでの時間は短かった。

「だめ……っ激しいと、怪我が」
「いや、それでもいい」
「レオン、っあ!」

 制止しようとしたところで、頭の芯まで痺れるような快感にはもう抗えない。2人が溶け合う時間はまるで永遠のように感じるのに、終わりに向かって昇り詰める身体を抑えるのは不可能だ。シャンティは引き寄せられるままに身を倒し深くキスを交わす。

「――っ!!」

 そしてレオンの手が細い腰を掴み最奥を穿った時、彼女は熱が弾けると同時に束の間意識を手放した。全身に迸る目も眩むような激しい快感の中、恋人の深い愛情を確かに胸の中に感じながら……。

「……?」

 それからしばらく経った頃、幸せなまどろみから醒めた娘がゆっくりと目を開くと、レオンは少し離れたところで彼女のポーチを手にしていた。シャンティが目覚めたことに気づいた彼はすぐに戻ってきたが、見覚えのある小さな麻袋をその右手に握っている。ところが情事の後で未だはっきり働かない頭では、それが一体何だったのかをなかなかすぐに思い出せない。

「ああ、起きたならちょうどいい。手を出しな……いや、そっちじゃない」

 言われるがままに右の手を差し出すと相手は逆の手を引き、事態が飲み込めずにいる彼女に目を細めて微笑みながら、袋から出した冷たく硬いものを薬指に滑らせる。

「預けておいて何だが、こいつは元々お前のものなんだ」
「!!」

 がっしりとした大きな手が離れ自身の目で“それ”を見た時、シャンティは視界に映るものの存在が信じられなかった。それは紅い石のついた何の変哲もない指輪だったが、台座の裏に彫り込んである文字を彼女は既に知っている――それが自らの両親2人の名の頭文字であることを。

「ど……どうしてこれが!? だって、私」
「いくらお前が誠実で律儀な性質たちの女だと言ってもよ、こういう出処の金で雇われろってのはさすがに酷だぜ。だから質屋で買い戻した、お前が行った後ですぐにな」
「えっ!?」

 一銭も払わないまま同行を願い出るには気後れし、旅立つ直前シャンティは形見の指輪を金銭に変えた。渡した額とて借金の返済の足しにはならないまでも、決してすぐ使いきれるほど少ないわけでもなかったはずだ。それに質物の常として1度売った物を買い戻すには、初めに受け取った額よりも高くなるのが当然な以上、右から左に金を動かしても取り戻せるわけではない。しかしそんな娘の考えなど見通しているだろう彼は、恋人の髪を撫でると小さく笑って軽口を叩いた。

「意外かもしれんがこう見えてそう金には困ってないんでね。旅の終わりにこいつをお前に返してやるつもりでいたんだ……あの頃はまだぞっこん惚れ込んじまうとは思わなかったしな。安心しろよ、新しいのも今度きちんと買ってやるから」

 そう言ったレオンは縋りつく彼女を両腕で抱きしめると、限りない愛しさを込めた声でその耳に優しく囁く。

「シャンティ、お前を愛してる。愛してるんだ、お前だけを」